はーい、かおりです。
昨日の続きです。
(わたしが、台東区に初めて住んだのは、「歌舞伎」に出会ったからでした。歌舞伎ゆかりの場所が、たくさんあり、足を運ぶようになり、ふとした好奇心で、不動産屋さんのドアを開きました。)
「あのう、表に貼ってあった、6畳と3畳の和室の部屋なのですが・・・」
「ありますよ」
不動産屋のご主人は、ぎこちない笑顔を浮かべるわたしの顔に、愛想の良い笑みを返しました。
「ただ、お風呂がないんです」
「えっ、風呂がない?」
そうだったのか。だから安いんだ。
「いい部屋なんですけどねえ、お風呂がないことだけ大丈夫だったら。女性だと、どうかなあ。でも、気にいる人は気にいると思う、いい部屋ですよ。・・・見てみますか?」
「いいんですか? 借りるか、借りないか、まだ決まってないんですけれど・・・」ここは正直に言うしかない、と思って言うと、
「いいですよ。大家さん、すぐ近くにいますし、すぐ見られますよ。部屋っていうのは、見てみないことにはねえ」
その「見てみないことにはねえ」という、不動産屋さんの言葉に背中を押され、部屋を見学したわたしは、一目で、その部屋を気に入ってしまいました。
日当たりが良くて、ベランダに出ると、洗濯物がいかにもすぐに乾きそうでした。
ちゃぶ台でも置いて、畳の上で生活しよう。夜は押入れから布団を出し、朝は押入れに布団をしまう、そんな生活をするのもいいな、と思えました。

気分は、樋口一葉。台所にも窓があり、空が見え、住み心地が良さそうでした。
ネックは銭湯・・・。
迷ったとき、やめるという方向ではなく、やるという方向に行くのが、わたしの性格。
数日後、再び、不動産屋さんを訪れました。
人生の一時期、銭湯に通う日々があってもいいかな、とそのとき思ったのです。
ちょっと実験的ではあるけれども、やってみよう。
こうして銭湯通いの日々が始まりました。